東京高等裁判所 平成4年(ネ)2044号 判決 1992年8月27日
東京都目黒区中町二丁目三二番四-一〇一号
控訴人
篠塚賢二
東京都大田区中馬込一丁目三番六号
被控訴人
株式会社リコー
右代表者代表取締役
浜田広
右訴訟代理人弁護士
野上邦五郎
同
杉本進介
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一 当事者が求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人に対し、金五五〇万二〇〇〇円及び内金一六〇万二〇〇〇円に対する昭和五三年一月一日から、内金三九〇万円に対する昭和五三年八月一五日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
4 仮執行宣言
二 被控訴人
主文同旨
第二 事案の概要
次のとおり付加・訂正するほか、原判決事実及び理由の「第二 事案の概略」欄記載のとおりであるから、これを引用する。
一 当審における控訴人の新たな主張
本件考案における「幅截断用カッターが固着された軸であると同時に長さ切断用カッターが緩挿された軸でもあるもの」と、被控訴人製品(一)ないし(三)における「幅截断用カッターが各装着されている軸と長さ切断用カッターが装着されている軸とは別個の軸であるもの」とは、基本的な技術的思想が同一であり、かつ、被控訴人製品(一)ないし(三)は、本件考案が奏する作用効果、すなわち、引き出した巻回テープ類を長さ切断用カッターによって横方向に切断することができるとともに、引き出す巻回テープ類を幅截断用カッターによって縦方向に切断することができるという作用効果と同一の作用効果を奏するから、本件考案と被控訴人製品(一)ないし(三)との右構成上の相違は、設計上の微差もしくは単なる設計変更にすぎない。
したがって、被控訴人製品(一)ないし(三)は、本件考案の技術的範囲に属する。
二 原判決別紙目録の訂正
原判決別紙目録(三)の七枚目表一行目の「(四)」を「五」と改める。
第三 争点に対する判断
一1 本件明細書の実用新案登録請求の範囲は、原判決添付の実用新案公報の該当項記載のとおりである(このことは当事者間に争いがない。)から、本件考案は、「操作摘み9を有する可動刃4の緩挿軸8に幅截断用切刃7を固着」することを構成要素とするものである。したがって、本件考案における軸8は、幅截断用切刃7が固着された軸であると同時に可動刃4が緩挿された軸でもある。
これに対し、被控訴人製品(一)、(二)において、幅截断用カッターである上回転刃49、下回転刃48が各装着されている軸45、軸44と長さ切断用カッターである回転刃22が装着されている軸61とは別個の軸であり、また、被控訴人製品(三)において、幅截断用カッターである上回転刃5、下回転刃4が各装着されている軸45、軸46と長さ切断用カッターである回転刃3が装着されている軸59とは別個の軸であるから、被控訴人製品(一)ないし(三)が、幅截断用カッターと長さ切断用カッターの軸を共通にする本件考案とは構成を異にするものであることは明らかである。
2 控訴人は、本件考案における「幅截断用カッターが固着された軸であると同時に長さ切断用カッターが緩挿された軸でもあるもの」と、被控訴人製品(一)ないし(三)における「幅截断用カッターが装着されている軸と長さ切断用カッターが装着されている軸とは別個の軸であるもの」との構成上の相違は、設計上の微差もしくは単なる設計変更にすぎない旨主張する。
しかし、本件考案は、幅截断用カッターと長さ切断用カッターの軸を共通にすることを必須の構成要素とするものであるのに対し、被控訴人製品(一)ないし(三)は、幅截断用カッターと長さ切断用カッターを装着する軸を別個のものとするものであって、刃と軸との組合せの形態を異にしており、そのために、巻回テープ類あるいはロール紙を長さ切断及び幅截断する方法、態様も異なっているから、両者の構成上の相違が、設計上の微差もしくは単なる設計変更でないことは明らかであって、控訴人の主張は理由がない。
3 以上のとおりであるから、被控訴人製品(一)ないし(三)は本件考案の技術的範囲に属さないものというべきである。
二 よって、控訴人の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく失当であるから、これを棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 松野嘉貞 裁判官 濵崎浩一 裁判官 押切瞳)